


ふと、蝉の声で目が覚めた。
時計を見るとまだ朝の6時を回ったばかりだ。
やけに元気よく鳴いている。そうだった、昨日からお盆休みなんだ。
夕べは地図を見ながら少し飲みすぎたようだ。地図でいろいろなツーリングルートを 考えるのはとても楽しい。つい、お酒もすすんでしまう。 再び目を閉じて寝ようとしたが、なかなか寝つけない。 蝉の声もいっそう激しくなっている。 しかたなくベットに座り、タバコに火を着ける。 「久し振りにバイクで出掛けてみるか」 夕べ、地図を見ていたせいか、旅に出たがっている自分がいる。 |
2本目のタバコを途中でもみ消し、立ち上がる。
顔を洗うとシャキッっとしてきた。
珍しく朝から気分がいい。飲みすぎたわりには酒も残ってないようだ。
目的地を決めずに出かけるのもいいかもしれない。
部屋に戻り、いつものツーリングバックを取り出す。
2、3日のイメージで着替えを用意し、あとはデジカメや地図、メモ帳などをバックに詰め込む。
夏のツーリングは荷物が少なくてすむ。
荷物をバイクにくくり付け、チョークを引いてセルを始動。「キュルルルル・・・・・」 かからない。 「キュルルルルル・・・・・・」 だめか? 「キュルルルルルル・・・ズバボッボッボッ・・・・・」 かかった! 暖気をしている間にタバコをふかしながらコースを考える。 「とりあえず北に向かうか・・・・」 |
暖気もすみ、いよいよツーリングのスタートだ。
天気はいまひとつ冴えない。
天気予報によると、ここから北方面の地域は降水確率が20%から40%くらいだ。
なんとか、クリアできるだろうか。
家をでて北上し、40分も走ると広い高原のど真ん中にいた。広い空を覆い尽くす雲が夏の季節感を無くさせている。 まだ、8月も中旬に入りかけたばかりだというのに。 ただ、温度だけは上がっているようだ。 26℃くらいはあるのかもしれない。 秋っていうやつは、夏の名残を惜しんでいると、 いきなり切って落とされたようにやってくるから 気をつけなければいけない。 |
高原をあとにし、山を2つほど越えると、視界にいきなり盆地が広がった。
市街地には向かわず、高速道路に入る。
さすがにお盆だけあって、いつもより交通量が多い。
急ぐ旅でもないので、流れにまかせてのんびり走る。
さて、ある程度のコースを考えなくては・・・・・途中、サービスエリアに寄り、入口近くにバイクを止める。 缶コーヒーを買ってきて、縁石にしゃがみ込み地図を広げた。 やはり、海か? どんどん北上して、海に突き当たるまで走ろうか。 自販機で買った缶コーヒーはあまり冷えてなく、なおさら甘く感じる。 半分ほど残っている缶コーヒーを片付け、再び出発する。 北に向かって・・・・・。 |
![]() 高速は盆地を突き抜け、北にルートをとっている。 両脇には3000m級の山々がそびえたっているのだが、 あいにくの天候のため、雲に隠れて見えない。 路面も雨が降ったあとがあり、 先行きの不安を感じる。 このあたりで、高速を降り、山岳ルートを流してみようかとも 思ったけれど、 やはり、一気に海まで抜けるしかないようだ。 |
しばらく走ると、右手に広い湖が見えてくる。湖畔に降り立つと、まるで海のような大きな湖だ。 夏は、湖上花火大会でとても盛りあがる。 今年はもう終わったのだろうか・・・・・。 少しだけサービスエリアから眺めて 湖をあとにする。 とても心地良い風が吹いていた。 |
湖のあるところから30分ほど走ったとことで、
高速を降りた。
ここで降りるのが一番海までの最短距離なのだ。
海まで国道が走っているが、川向こうの旧道を選んで走る。
やっぱり国道をはずれると風情がある風景に出くわす。川で、釣りをしている人、カヌーをやっている人・・・・・・ とてものどかで気持ちも落ち着いてくる。 この川も海につながっているのだろうか・・・・ さて、そろそろお昼かな。 この先に登山客で賑わう小さな町があって、 そこに美味しい蕎麦屋があるのだ。 ただ、いつも行列ができるので、早めに行くとしよう。 |
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![]() 店内は、登山客で賑わっていた。 年配の人達が多いようだ。 バイク乗りは自分だけしかいないため、 少しだけ違和感を感じる。 地図をバイクに取りに行き、 今後のルートを確かめながら蕎麦を待つとしよう。 海まで、あと80km弱ってところだろうか。 |
![]() 名物「塩の道そば」が運ばれてきた。 海老や野菜の天ぷらと、おろしや盛りだくさんの山菜が のっている。 料金は1600円と、少し高めかもしれない。 でも、蕎麦嫌いな自分でも美味しいと感じる。 たまの贅沢だ。 |
ゆっくりと食事を堪能し、店をでる。
まだ、お昼過ぎだ。
また、脇道に入りながらのんびり北上しよう。
のどかだった県道も、途中から国道と合流した。
ここからはトンネルも多くなってくる。
海まであと、50kmだ。
![]() このあたりのトンネルは、その作りのせいなのか、 排気音やタイヤの音などが重なって、 まるで魔物が叫んでるように聞こえるときがある。 長いトンネルを抜けて出口が見えたときはホッとする。 どうも、トンネルは苦手だ。 |
![]() 畑の中を走る一両電車が旅気分をいっそう盛り上げてくれる。 たまには電車の旅もいいのかもしれない。
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山の間をすり抜けて行くと平地にでた。
いよいよ海とご対面だ。
小さな港町をすぎ、海沿いを走る国道とぶつかったら
いきなり海が現れた。
![]() 川がぶつかる海はとっても不思議だ。 温度も質も違う。 淡水と塩水、そして波と流れがぶつかり合う。 いったいどんなやりとりをしているのだろう。 毎日毎日同じ事を繰り返し・・・ 魚はどうしてるのだろう、 他の生物は? いつも不思議に思う。 |
海岸通りを南西に下りながら半島へ向かう。
天候が悪いせいか、どこに行っても暗い感じが付きまとう。
![]() 雨が降らないのがせめてもの救いだが、こうも曇りが続くと 気分までよどんでしまう。 空も海も大地も広いだけに、余計にグレーな感じが強調される。 ただ、とても涼しく走っていられるのは この8月に幸せなことなのかもしれないが。 |
再び国道からはずれ、県道へと入る。
少しだけ薄日が差してきた。
不思議なもので、たったそれだけのことで、景色も変わり、
気分まで変わってしまう。
![]() いきなり畑の中に観覧車が現れ、 ひまわりまで花を添えた。 観覧車の向こうはすぐ海だ。 乗ったら、きっと気分がいいに違いない。 かすかな陽射しとはいえ、さすがに8月の太陽だけあって、 ぐんぐん体感温度が上がる。 歩くと汗もにじんでくるくらいだ。 でも、嫌な気はしない。 どんどん暑くなれ!と、 心の中で叫ぶ。 |
![]() 本当に広い! 道の先は海しかない。 畑の先は畑しかない。 見上げれば空と雲だけ。 寂しくなるくらいの広さだ。 きっと、面積上の広さだけではないんだろう。 視覚的、感覚的、そして、情緒的な広さも加わる。 |
![]() 夕暮れの海岸はなぜか物悲しい。 水平線の向こうの山々に大きく雲が覆い被さってるのが見える。 これから向かうあたりだ。 |
海岸に別れを告げ、国道に入る。
とても広いバイパスだ。
小雨がちらついてきたので、デジカメをしまい、車をかわしながら速度をあげる。
しばらくバイパスを西に流したあと、今度は半島を北上する国道にぶつかったところで、
右折して半島に入る。
雨は小雨が降ったりやんだりで、レインウェアを着るほどではない。
しかし、不安定な空の下をゆっくりと走る余裕もなく、
半島最大の港町に急ぐ。
17:30頃だろうか、途中で予約をしていたホテルに到着した。
軽くシャワーを浴び、ホコリと疲れを洗い流す。
髪を拭きながら部屋の窓を開けると
本格的な雨が降っていた。
どうやらギリギリ間に合ったようだ。
ベッドに腰掛け、タバコに火を着ける。
夕飯はどうしようか・・・・・
近くにコンビニはなさそうだし、それっぽい食堂もない。
居酒屋にでも行ってみようか。
そういえば、今日は缶コーヒー2本だけしか水分を取ってない。
生ビールが旨いに違いない。
ろくに髪も乾かさず、TシャツとGパンに着替えて町に出る。
ホテルは駅の近くにあり、ちょっとした飲食店街もすぐだ。
ホテルの傘を借りるまでもないほど近くの
居酒屋の暖簾をくぐった。
なかなか趣のある雰囲気の良い店だ。生ビールと、刺身やツマミを注文する。 運ばれてきた生ビールは、グラスがキンキンに冷えていて ビールが凍るほどだ。 旨い! 一気にグラスの半分ほどを飲み干し、一息つく。 思わず声がでてしまうのはなぜだろう。 |
肴が運ばれてきた。
どれも旨い。
旅先だからなおさらなのだろう。
お腹も落ち着き、喉も潤った頃、カウンターの隅で
一人で飲んでいる女性に気がついた。
カジュアルなお店だけど、女性が一人っていうのも珍しいなと、
訳ありなのかなって、勝手に思っていたら
つい、目があってしまった。
慌てて目をそらして、グラスを口に運ぶがあまりにも不自然だ。
動揺しながら、グラスを何度も口に運び、タバコに火を着けていると、
彼女が近づいてきた。
「お一人ですか?」 と、彼女。
「はい」
「ご一緒してもよろしいかしら」
「あっ、はいっ、どっ、どうぞ・・・」
動揺を隠し切れない自分が情けない。
彼女はグラスを持って隣りに座る。
良く見るととても綺麗な女性だ。
化粧が濃く見えたが、実は端正な顔立ちなのでそう見えるだけだ。
ほとんど化粧をしてないようだ。
思わぬ展開にドキドキしながら港町の夜は更けていった。
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