わ   け
                       そんな彼女が好きな理由
 
       5月にしては風が暖かく感じる昼下がり、彼女は3mくらい前を歩いている。オフホワイトの
 
       ジーンズに紺のダンガリー、長いストレートヘアが風に踊っている。今日はすこぶる機嫌が
 
       よさそうだ。機嫌の悪い時の彼女の髪はあまり動かない。歩き方の違いだろうか。
 

       
       人口8万人たらずの小さな港町、港町といっても、これといって異国情緒漂う雰囲気がある 
 
       あるわけではなく、魚市場があるわけでもない、あまり特徴のない港町だ。港の先に大きな
 
       貨物船が一隻止まっているのが見える。
 

 
       港に続く小さな川沿いの道を2人は歩いていた。
 
       「この先に美味しいパフェのお店があるの」
 
       振り向きながら彼女は言った。いつだってそうだ、こんな言い方をした時はもうそのパフェの店
 
       に行くつもりに違いない。反対したって無駄なんだ。
 
       別にパフェは嫌いではないけれどわざわざ食べたいとは思わないし、きっと途中で飽きて残す
 
       に決まってる。それより男がパフェを食べるのは恥ずかしい、こっちの気持ちの方が強いかも
 
       しれない。でも、せめてもの反抗で、とりあえず興味なさそうに
 
       「ふぅーん」
 
       と言ってみる。
 
       「ローマの休日っていうパフェが凄いんだって!絶対に食べよっ!」
 
       ほら、やっぱり俺の反応なんて気にしちゃいない。しかもローマの休日ってなんだ?注文する
 
       時に「ローマの休日を」って言うのか?想像しただけで恥ずかしくなる。
 
       「行こっ!」
 
       彼女は俺の腕をつかんで歩き始めた。もうこうなったら、諦めるしかない。まぁいつものことだし
 
       覚悟を決めて並んで歩くことにする。
 
       それにしても、いい天気だ。風は爽やかだし空も貫けるように青い。こんな日にパフェを
 
       食べるのも悪くないかもな.....なんて思い始めていた自分に気がつき苦笑した。
 

 
       その店は川沿いの道路に面した角にあった。けっこう古くからあるらしく、まわりの風景に溶け
 
       込んでいたけれど、もともとの建物のデザインがいいのか、花や小物でうまく飾っているせいか
 
       古さは 感じない。
 

 
       ログハウス風の店内は思いのほか広く、そして明るいことに少し驚いた。
 
       窓側と入口側に8つのテーブル席と厨房を囲むようにカウンター席が10ほどあろうか。
 
       もう少しテーブルが置ける余裕はありそうなのだが、それがかえって店内を広くみせているよう
 
       だ。
 
       入口側の奥のテーブル席が空いていたので、奥に進んでいくと、手前のテーブルのカップルが
 
       カレーを食べているのが目に入ってきた。とても食欲をそそる匂いだ。まだ、お昼を食べてない
 
       ので、むしょうにカレーが食べたくなる。でも、パフェなのだ、パフェを注文するしかないのだ。
       
       席についた彼女はメニューを見て
 
       「すごーい、[ティファニーで朝食を]に[おしゃれ泥棒]だってー。でもやっぱり[ローマの休日]が
 
       一番美味しそぅー!」
 
       ヘップバーンの映画からとってるんだ、そういえば壁にヘップバーンのポスターや写真が貼って
 
       ある。店のオーナーの趣味なのか。
 
       店員が注文をとりにきたので、さりげなく、本当にさりげなく
 
       「この[ローマの休日]を」
 
       と、注文する。やっぱり、顔から火がでそうだ。彼女はニコニコしながらうなづいている。そして、
 
       「私、チキンカレーのセット、アイスコーヒーにできます?」
 
       え?え?えー?言葉にならない。たった1秒の間に注文を取り消すこととか、カレーに替える
 
       とか、彼女に抗議するとか、頭の中を駆け巡る。しかし声にならない。店員の後ろ姿でわれに
 
       かえる。
 
       「なんで?パフェの美味しい店じゃなかったの?ローマの休日 食べるんじゃなかったの?」
 
       「だって、おなかも空いてたし、ここ、カレーも美味しいんだって!」
 
       「・・・・・・」
 
       「いいじゃん、半分ずつとかすれば」
 
       カレーとパフェなんて交互に食べれるもんか!冗談じゃない!それならそれで俺がカレーを
 
       注文したかった。と心の中で反論してみるが、しかし、俺の気持ちなんかわかるはずもなく、
 
       彼女は雑誌を取りにいった。
 

 
       しばらくして、
 
       「ローマの休日のお客さまー」
 
       と店員が、これでもか!っと派手に盛り付けたパフェをもってきた。2人しかいないんだから、
 
       黙ってテーブルに置けばいいものを・・・・。しかも、彼女は
 
       「こちらです。」
 
       と俺に手をむける。
 
       「美味しそうだねー」
 
       彼女は本当に嬉しそうにパフェをみている。その彼女のほうには、それこそ美味しそうなチキン
 
       カレーがおかれた。
 
       「食べよっ!」
 
       「・・・・・・・・・」
 
       しかし、このパフェはいったいどこから手をつけたらいいものやら。パフェを前にしてオロオロする
 
       自分が情けない。アイスが食べたいのに、フルーツやら、プリンやら何やらたくさんのものたちが
 
       邪魔してなかなかたどり着けない。悪戦苦闘していると、
 
       「交換しよっ!」
 
       彼女が言う。まだ2口くらいしか食べてないはずだ。
 
       「まだ、食べてないじゃん」
 
       「美味しいよ、このカレー、交換しよっ!」
 
       彼女は皿とパフェを移動し、なれた手つきでパフェを食べはじめた。
 
       「美味しい!やっぱり評判どおり」
 
       俺はカレーを食べる。うまい、本当にうまい。
 
       「全部食べていいの?」
 
       「うん、いいよ」
 
       「本当に食べちゃうぞ」
 
       「うん、いいよ、美味しいでしょ?パフェは少し残しといたげる」
 
       「いぃ、本当にそれはいい」
 
       「なんでぇー?美味しいのに」
 

 
       アイスコーヒーを1つ追加して、おだやかな時間を過ごしたあと、店をでる。
 
       彼女は、海のほうに向かって大きく背伸びをした。
 
       「うーん、気持ちいいー!」   
 
       海からの風に彼女の髪が踊るように揺れている。
        
 
       「ねぇ、知ってる?駅前にすごく美味しいあんみつ屋さんがあるんだって」
 
       彼女の向こうに5月の晴れた空と少しだけの海が広がっていた。 



       
こんな夢をちょうど1年前くらいにみました。もちろん、伝えやすいように多少の脚色はしています。
       たぶん、ここに登場する女性みたいなタイプに弱いんだらうなぁ・・・って思いました(笑)
                
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